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2016年の経済危機と政治的混乱について
2014年3月、ブラジルの歴史上、類を見ない大掛かりな贈収賄事件の摘発捜査が始まった。
ラヴァ・ジャット作戦(洗車作戦)である。
ブラジルの歴史上、また政治上、贈収賄は当たり前、そして査察は摘発まで踏み込まないという暗黙の了解が崩れ去った。
国民の誰しもが知っている。
「ブラジルは国が広くて、人口も資源も農作物も内需も沢山あるのに、なぜ国が良くならないの?」「政治家が盗むからだよ」
遡れば1950年代と70年代の「ブラジルの奇跡」と呼ばれた経済成長期に、経済的に成功した既得権益層と政治家の癒着が生まれ、それが定着してしまったことが賄賂体質の始まりであった。
既得権益層は規制や関税を自分達の都合の良いように整備し、国内産業保護を推し進め、国内の資源と産業を掌握していった。
その後、1990年代のハイパーインフレに苦しんだブラジルは、1レアル=1ドルの固定相場制であるレアルプランや、インフレターゲット制によりこれを切り抜け、さらなる経済成長を果たす為に、国営企業の民営化と外資企業への市場開放に舵を切った。
狙い通り2000年代に大きな経済成長を実現したが、国営企業を民営化したとはいえ、実質は元国営・半国営で、根本的な政治と既得権益のつながりは切れなかった。
2004年頃から資源高騰による外貨獲得と、中間層の増加による内需拡大によるバブル経済に沸いたブラジルだが、2014年頃から資源安と政治的混乱でGDPはゼロ成長となり、2015年についにマイナス成長へと陥落した。
2016年のGDP成長率も、前年に近い-3.8%台の見通しであり、GDP総額はインドやイタリアに抜かれてしまった。
贈収賄とバラマキ政策により、国の金庫を空っぽにし、経済をガタガタにさせたのが、13年間与党の地位に居座った労働党である。
社会的マイノリティーである貧困者層の味方として、労働者階級の出身でありながら大統領にまで昇り詰めた人物がルーラであった。
ヨーロッパからの移民の子孫である既得権益が、多くの下層階級を支配してきた格差体質のブラジルに、風穴を開けるべきカリスマとして現れたのがルーラ及び労働党だったのだ。
しかし2016年に入り、建設会社から豪邸を何軒も賄賂として受け取ったことが発覚し、結局は同じ穴のムジナであったことを露呈してしまった。
低所得者層へのバラマキ政策であった生活扶助給付金は、実際は国民の票集めの手段としか考えておらず(所得は低くとも民主主義では一票は一票)、結局は国民や労働者から吸い上げた税金で私腹を肥やしていたのだ。
また政治的手腕と経験が足らず、ことごとく経済政策を失敗させ、連立与党である民主運動党との関係を悪化させ、身内に敵を作ってしまったルーラの後任であるルセフ・ジウマ前大統領は、2016年5月12日に、上院にて罷免審議が可決され、180日間の大統領職務停止が確定した。
今回の摘発捜査は、ブラジリア(ブラジルにおける永田町)ではなく、南部の地方都市クリチバから始まった。
ブラジリアだったら今までのように根回しにより揉み消されていただろう。
また刺し違える覚悟で権力を刺したのは、若手の正義感溢れる判事であった。
ブラジルも少しずつ変化している。
今回のブラジル経済の崩壊と汚職政治家の摘発は、歴史的な事件であり、またドラスティックな展開であった。
まさに時代の節目を目撃することとなった。
今回の事件は重く、忘れ去られることではない。
また同時に国民全員が政治を学び、新しいステップへと進む時が来たということだろう。
国のトップを選ぶのは紛れもない私たち、ブラジル国民なのだから。
私は今回の事件を「起こるべくして起こり、ブラジルがさらなる成長を遂げる為に必要な出来事であった」と捉えている。
これらの痛みと経験が、今後ブラジルにどのような発展と成長をもたらすのか、実際にこの目で見届けたいと思う。
2016年6月1日